Fragment 映画の感想

映画の感想です。ネタバレしています。

理想郷

AS BESTAS / 2022年 / スペイン、フランス / 監督:ロドリゴ・ソロゴィエン / IMDb:7.5 / サスペンス、スリラー

【あらすじ】
田舎に越して来たけど村民ともめてます。


【感想】
スペインの片田舎に越してきたフランス人夫婦が隣人との軋轢に悩む物語。実際に起きた事件が基になっている。どうしたらこの悲劇を防げたのか、考えてもなかなか答えが出ない。都市から田舎に越してきた人が地元に受け入れてもらえないという話は日本でもしばしば耳にする。これは国境のない普遍的な物語かもしれない。なんともモヤモヤしましたよ!

妻とスペインに移住してきたアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ、右から二人目)。夫婦は農業を営んでいる。アントワーヌはスペイン語を学んで地元に溶け込もうとし、古民家再生を手掛けて地元を盛り上げようと努力するが住民たちの目は冷たい。

アントワーヌの下手なスペイン語はからかわれ、フランス野郎と罵倒される。また、風力発電の誘致にアントワーヌは反対する。彼は環境破壊と大企業の搾取を心配したが、村の人々は環境破壊はさておき風力発電の恩恵でいくらかの金が入ると見込んでいた。アントワーヌと村人の関係はこの件をきっかけに悪化する。アントワーヌに味方する村人もいたが、その数は少なかった。

はたして主義主張が違う人と、どこまでわかり合えるのだろうか。アントワーヌの風力発電誘致への反対はおそらく正しいのだろう。同様に、彼がすすめてきた古民家再生もうまくいけば地元を盛り上げることになったのだろう。

だが、たとえ彼が正しくても、そもそも彼の話をきちんと聞いてもらえないのだった。彼と村人の間にはいくつかの違いがある。夫婦は高学歴で、フランス人で、都会から来ている。また、それほど豊かではないかもしれないが、スペインの田舎に土地を買って農業をやるほどのお金はある。アントワーヌには妻子もいる。アントワーヌを激しく嫌う隣人には、劣等感からくる反発がある。

とにかく目先の金が欲しい村人と、将来的な村の発展を願うアントワーヌでは見ている場所が違うのだ。経済格差の問題は大きい。この場所に村人だけしかいなかったら、村は衰退し、やがて廃村になったかもしれないが悲惨な事件は起きなかったかもしれない。村人は似たような境遇で差は少ない。そこに異分子であるアントワーヌ夫婦が加わったことで摩擦が生じた。

隣人が愚かだといえばそうだが、では教育環境が整っていないことを本人の努力だけでなんとかできるのだろうか。また、教育が整ってないにせよ、アントワーヌに暴力を振るっていいわけがないし、アントワーヌを理解して助けた村人もいる。全員が粗暴に振舞うわけではないのだ。どこまでが環境、どこまでが本人の資質と簡単に判定できるわけもない。アントワーヌ側に問題がなかったか、それはわからない。どこかに村人を見下すような気持ちがなかったか。そういった感情は静かににじみ出てしまうものだし、人はそういった臭いにはとりわけ敏感だ。

わかりあうことの難しさ、それより前の課題、つまり「議論を始めること」の難しさを感じる。誰もが必要最低限の知識や理解力を有しているわけではない。だが、それでも生活していれば問題は常に生じる。そもそも議論は信頼関係がなければ成立しにくい。乱暴にいえば、見知らぬ人間や嫌いな人間とは話し合いができないし、聞く耳を持てない。では、意見が異なる者の信頼関係の醸成はどうなされるかといえば時間が必要で、小さな衝突と和解を繰り返し、それが関係の構築に繋がるのではないか。アントワーヌと村人のように大きな違いがあって村に入ってきた人というのはねえ、難しいだろうなという。アントワーヌはどうすれば良かったのだろうか、やりようによっては対立は解消できたのか、それを考え続ける映画なのだろう。

ソフト / クワイエット

SOFT & QUIET / 2022年 / アメリカ / 監督:ベス・デ・アラウージョ / スリラー、人種差別 / IMDb:6.2 / 92分


【あらすじ】
人種差別グループを作ったら大変なことになった。


【感想】
人種差別にはまり込む人々を描いた作品。行動があまりに場当たり的で、終始イライラさせられる作品。それは監督の意図なのだろうけど、それにしても、もうちょっとこう計画性をもって‥‥と思ってしまう。映画はとても良くできているのですが、登場人物が全員かなりの差別主義者なので観ていてしんどいです。あと、アホ。こうならんように気をつけとこ。

幼稚園教師のメアリー(ステファニー・エステス、中)は「アーリア人団結を目指す娘たち」という白人至上主義グループを結成する。多文化主義・多様性が重んじられる風潮に反発する彼女たちは、集会で日頃の鬱憤をぶちまける。帰り道、商店でアジア系姉妹と口論になった彼らは、なりゆきからとんでもない罪を犯すことになる。

SNSでは人種、性、職業、学歴など、さまざまな差別的発言を見かけることがある。だが、日常ではそういった差別を目にすることはほとんどない。よっぽど親しい関係でもない限り、そういった面が顔を覗かせることはないのだろう。この映画では、よくある食事会のような集まりで、日常の不満を吐露するうちに差別的発言がエスカレートしていく。恐ろしいのは、彼女たちが抱える不満は、どこにでもありそうなものに思えること。

最初の女性は、後輩であるコロンビア人の同僚が、自分より早く昇進したことに不満を持っている。上司に不満をぶつけると「彼女の方が指導力がある」といわれてしまう。さらに彼女が不満なのは、同僚たちが誰も自分の味方をしてくれないことだった。この話を素直に受け取るなら、コロンビア人の同僚の方が優秀なんじゃないの、というだけにしか思えない。

ところがこの会のメンバーは「それはおかしい」と口々にいう。彼女も最初は恐る恐るという感じで不満を口に出していたが、周囲の反応をみて勢いづく。やっぱり自分は間違っていない、多様性を重んじる社会の犠牲になっている哀れな白人の被害者だと信じ込んでしまう。もし、上司がいうように同僚の方が優秀なだけだとしたら、彼女は自分の無能さに向き合わねばならない。誰だって自分の無能さは認めたくない。だとするなら、他に納得できるストーリーを作らねばならず、それが“マイノリティを優遇している。自分は間違った社会の犠牲者”というストーリーなのだろう。認知が歪んでいるとしかいえないが、こういう人って案外多いのではないか。


このグループのメンバーは、人生がうまくいってない人が多い。差別主義者を「能力が低い人」「不幸な人」と決めつけるのは危険だが、そういう人が多いのかもしれない。これは優秀な人に差別主義者がいないということではない。どんな人間も差別感情からは逃れられないと思う。だが、もし優秀な人間が心の内にある差別的感情に気づいたら、なんらかの修正を図るはずだからだ。

ここでみんなに励まされた女性だが、彼女は言葉遣いが悪かったり、人数が少なかったという理由で誘われたり、実はこのコミュニティの中でもバカにされているところがある。差別主義者同士なかよくやればと思うのだけど、こんな小さなグループ内でも序列や差別は存在する。私たちはきっと差別を避けて通れない。だからたまに振り返って、自分の行動を点検してみる必要があるのだろう。

食料品店でアジア系女性たちと口論になったが、メアリーの夫(左)は妻たちをなんとか止めようとする。それでも最後は彼女たちに押しきられて、アジア系女性の家へと向かうことになる。衆寡敵せず、非学者論に負けず。バカが集まると本当に怖いよ~。

また、グループの新参者の女性がもっとも過激なことをいいだし、彼女がグループ内で一目置かれる様子も面白かった。グループが先鋭化し、より過激になっていく過程がわかりやすく描かれている。過激なことをいえばいうほど注目され、集団内の地位が上がるのだ。

この映画に出てくる人々はみな差別主義者だが、最初は誰も「違う人種を殺そう」とまでは口にしていない。むしろ、そんなことをいったら、この集団内ですら引かれていただろう。だが、それがふとしたきっかけで歯止めがきかなくなって暴走しだす。坂道を転がりだせば、もう止める手段がない。

ここに出てくるのは、あまりにも愚かな人々で「こんなバカおるんかい」と思うものの、うっかりすれば誰しもそんなバカになることもあるのではないか。私のような人間は、たまに自分を省みることが必要なのだと思う。ハーケンクロイツパイ、美味そうなんだよな。

サブスタンス

THE SUBSTANCE / 2024年 / イギリス、フランス / 監督:コラリー・ファルジャ / IMDb:7.2 / ホラー、スリラー / 141分
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【あらすじ】
怪しい薬を使ったら、若い頃の体に戻れました。



【感想】
昨年かなりの話題となった『サブスタンス』。美や若さへの狂気じみた執着から心を病んでいくデミ・ムーアがすばらしかったです。一週間おきに若い頃の自分と入れ替われるという滅茶苦茶な話ですけど、滅茶苦茶もここまでいけばまったく気にならず、ただただ面白かった。美への執着のすさまじさもさることながら、若い自分への嫉妬、老いへの憎しみという、最終的には自分自身すら敵とみなして暴走してしまう。最高です。こういうエネルギーに溢れたグロテスクな作品、もっと観たいぞ!

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現在は落ち目のハリウッドスター、エリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、プロデューサーから突然、番組降板を言い渡される。その帰り道、ショックで呆然としていたエリザベスは交通事故を起こしてしまう。病院にかつぎこまれた彼女は、怪しい看護師から違法薬品を宣伝するUSBメモリを手渡される。エリザベスは怪しみつつも薬品を手に入れ、みずからに使うと、エリザベスの背中が割れて若く美しい女性が誕生したのだった。

主演のデミ・ムーアといえば『ゴースト ニューヨークの幻』が印象的だが、以降もコンスタントに出演を続けながら、あまり印象に残る作品に出ていない。落ち目のハリウッドスターという設定は、デミ・ムーアのキャリアと役柄がかぶることで虚構と現実を交錯させ、物語に奇妙なリアリティを与えている。屈辱的ともいえる設定の役をよく引き受けたなと感心した。もっとも、デミ・ムーアだけでなく女優の多くは40代を超えると主演が減ってしまう傾向がある。誰もがメリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、ニコール・キッドマンになれるわけではない。デミ・ムーアがこの役を引き受けたこと自体が、作品のテーマを体現している。

また『サブスタンス』にはヌードもある。エリザベス・スパークルは50才の設定だが、実際のデミ・ムーアは60才を超えている。それであの肉体を維持しているのは節制と努力の賜物で驚異的といえる。それでも残酷なことに皺やたるみがあり、彼女が若返ったスー(マーガレット・クアリー、下)の姿と比べると、その差はあまりに残酷である。

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年齢差があるから当然とはいえ、若いスーとの対比は女優として嫌だろうなと思う。デミ・ムーアの「醜く崩れていく自分」を引き受ける覚悟がすばらしい。アカデミー賞の主演女優賞は逃したものの、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲れて本当に良かった。

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プロデューサーを演じたデニス・クエイドのいやらしさがすごかった。エリザベスとの食事中、エビを汚らしくクチャクチャと食べながら、ウェイトレスのお尻を見る。ここで寝だせば人間の三大欲求全部満たすんだけどな。とにかく欲望の塊のようなお人。エリザベスは、このプロデューサーにクビにされながら、若いスーになった後もこの人と仕事をするんですよね。彼のような人間を拒むのではなく、若く美しいスーをチヤホヤしてくれることに気を良くし、またしても受け入れてしまう。自分はもう若さを手に入れたのだから、老いた自分は関係ないということかもしれない。

この映画の恐ろしいところは、エリザベスの美や若さへの常軌を逸した執着はもちろんだが、男社会の中ではその美がないと評価されない残酷さにある。再び美を手にしたエリザベスは、かつてのように若い男たちとの情事を楽しみ、自分の番組を成功させてのし上ろうとする。エリザベスもプロデューサーと実は似ており、エリザベス自身もその価値観を内面化している。

最後は、薬の誤った使用で化け物のようになったエリザベスが会場にいた人々に盛大に血を浴びせる狂気の場面となる。その血の量はバカバカしいほどで、なんだか急に『ドリフ大爆笑』のオチを観ている気分になった。なんでこんな変なオチにしたのかなと思ったが、この狂った世界にしたのは男だけでなく、この世界の全員に責任がある感じがした。男に支配された世界、単純に男対女という対立に矮小化させるのではなく、若さを手に入れようとするエリザベス個人を責めるのではなく、美や若さを求める構造に全員が加担している世界そのものに罪があるというような、だから観客全員に血を浴びせて巻き込む形をとったのではないか。スクリーンの外にいる私たちにも責任を突き付けるようだった。

しかし、コラリー・ファルジャ監督は『REVENGE リベンジ』でも、裸の男女が血まみれで追いかけっこをし、ステーンってすっころんだ男が女に撃ち殺される場面があった。グロさとバカバカしさが同居するのが好きなのかもしれない。バカで面白いしな。ものすごいエネルギーに満ち溢れ、奇妙な展開に惹きつけられ、どぎつくも鮮やかで美しく趣味の悪い作品。最高です!