Fragment 映画の感想

映画の感想です。ネタバレしています。

ソフト / クワイエット

SOFT & QUIET / 2022年 / アメリカ / 監督:ベス・デ・アラウージョ / スリラー、人種差別 / IMDb:6.2 / 92分


【あらすじ】
人種差別グループを作ったら大変なことになった。


【感想】
人種差別にはまり込む人々を描いた作品。行動があまりに場当たり的で、終始イライラさせられる作品。それは監督の意図なのだろうけど、それにしても、もうちょっとこう計画性をもって‥‥と思ってしまう。映画はとても良くできているのですが、登場人物が全員かなりの差別主義者なので観ていてしんどいです。あと、アホ。こうならんように気をつけとこ。

幼稚園教師のメアリー(ステファニー・エステス、中)は「アーリア人団結を目指す娘たち」という白人至上主義グループを結成する。多文化主義・多様性が重んじられる風潮に反発する彼女たちは、集会で日頃の鬱憤をぶちまける。帰り道、商店でアジア系姉妹と口論になった彼らは、なりゆきからとんでもない罪を犯すことになる。

SNSでは人種、性、職業、学歴など、さまざまな差別的発言を見かけることがある。だが、日常ではそういった差別を目にすることはほとんどない。よっぽど親しい関係でもない限り、そういった面が顔を覗かせることはないのだろう。この映画では、よくある食事会のような集まりで、日常の不満を吐露するうちに差別的発言がエスカレートしていく。恐ろしいのは、彼女たちが抱える不満は、どこにでもありそうなものに思えること。

最初の女性は、後輩であるコロンビア人の同僚が、自分より早く昇進したことに不満を持っている。上司に不満をぶつけると「彼女の方が指導力がある」といわれてしまう。さらに彼女が不満なのは、同僚たちが誰も自分の味方をしてくれないことだった。この話を素直に受け取るなら、コロンビア人の同僚の方が優秀なんじゃないの、というだけにしか思えない。

ところがこの会のメンバーは「それはおかしい」と口々にいう。彼女も最初は恐る恐るという感じで不満を口に出していたが、周囲の反応をみて勢いづく。やっぱり自分は間違っていない、多様性を重んじる社会の犠牲になっている哀れな白人の被害者だと信じ込んでしまう。もし、上司がいうように同僚の方が優秀なだけだとしたら、彼女は自分の無能さに向き合わねばならない。誰だって自分の無能さは認めたくない。だとするなら、他に納得できるストーリーを作らねばならず、それが“マイノリティを優遇している。自分は間違った社会の犠牲者”というストーリーなのだろう。認知が歪んでいるとしかいえないが、こういう人って案外多いのではないか。


このグループのメンバーは、人生がうまくいってない人が多い。差別主義者を「能力が低い人」「不幸な人」と決めつけるのは危険だが、そういう人が多いのかもしれない。これは優秀な人に差別主義者がいないということではない。どんな人間も差別感情からは逃れられないと思う。だが、もし優秀な人間が心の内にある差別的感情に気づいたら、なんらかの修正を図るはずだからだ。

ここでみんなに励まされた女性だが、彼女は言葉遣いが悪かったり、人数が少なかったという理由で誘われたり、実はこのコミュニティの中でもバカにされているところがある。差別主義者同士なかよくやればと思うのだけど、こんな小さなグループ内でも序列や差別は存在する。私たちはきっと差別を避けて通れない。だからたまに振り返って、自分の行動を点検してみる必要があるのだろう。

食料品店でアジア系女性たちと口論になったが、メアリーの夫(左)は妻たちをなんとか止めようとする。それでも最後は彼女たちに押しきられて、アジア系女性の家へと向かうことになる。衆寡敵せず、非学者論に負けず。バカが集まると本当に怖いよ~。

また、グループの新参者の女性がもっとも過激なことをいいだし、彼女がグループ内で一目置かれる様子も面白かった。グループが先鋭化し、より過激になっていく過程がわかりやすく描かれている。過激なことをいえばいうほど注目され、集団内の地位が上がるのだ。

この映画に出てくる人々はみな差別主義者だが、最初は誰も「違う人種を殺そう」とまでは口にしていない。むしろ、そんなことをいったら、この集団内ですら引かれていただろう。だが、それがふとしたきっかけで歯止めがきかなくなって暴走しだす。坂道を転がりだせば、もう止める手段がない。

ここに出てくるのは、あまりにも愚かな人々で「こんなバカおるんかい」と思うものの、うっかりすれば誰しもそんなバカになることもあるのではないか。私のような人間は、たまに自分を省みることが必要なのだと思う。ハーケンクロイツパイ、美味そうなんだよな。